CIP(定置清掃)乾燥の落とし穴:“洗浄=清浄”ではない理由
ブロワーとエアーナイフのシステム販売で飛躍的に業績が伸びたソニック社(米国)
社長であるDan(小職の友人でもある)が面白い記事をブログとして掲載していました。
その内容をおすそ分けしたいと思います。
“我々は CIP サイクルごとに 4時間も乾燥を待っていた。
圧縮空気はコストもかかり不安定で騒音もあった。
他社製品を3件導入しても問題は解決せずソニックに相談したところ、今では混合槽/撹拌機/トート容器などでも 15〜30分 で完全乾燥できるようになった。
省エネ効果も高く、投資回収は 8ヶ月で完了。
水分残留によるバッチ停止も解消した。”
— 大手食品処理工場のプロセス技術者より抜粋

IBCタンク
この体験談が示すのは、プロセス工場(食品、製薬、化学など)で日常的に直面する課題です。
CIP(Clean-In-Place:設備内部をそのまま洗浄できる方式)は、汚れや残渣を除去する点では非常に優れていますが、水分の除去、すなわち「乾燥」が不十分だと、せっかく洗浄しても品質・安全面で問題が残るのです。
以下では、元記事の構成に沿って、日本の工場運営者・技術者向けにポイントを整理します。
なぜ“CIP後でも乾いていなければクリーンとは言えない”のか
CIP技術の限界と残留水分のリスク
・CIP は 99.99%の汚染物質を除去できる設計が主流ですが、それでも残留水分は完全には除けません。
・表面の水分が残ると、微生物の繁殖源・製品の希釈・品質不良によるロット廃棄など、重大リスクを引き起こします。
・特に、製造ラインのダウンタイム(乾燥待ち時間)は、機会損失として非常に高コストになります。
・圧縮空気を主な乾燥手段として用いる工場が多いですが、実は 消費エネルギーが過剰・乾燥結果が不安定・作業者依存 の問題があります。
残留水が「見えない場所」に潜む以下のような構造・部位が、乾燥を難しくする原因になります:
| 部位/構造 | 水分滞留の原因 |
| タンクの球状ヘッド | 重力排水だけでは水が残る表面ができやすい |
| 撹拌器・混合槽内部の羽根、支柱、シャフト部 | 複雑なジオメトリが乾燥空気の流通を阻害 |
| CIP配管のジョイント部、バルブ座、継手、ヒンジ部 | 傾斜設定だけでは洗浄液や水が残ることがある |
特にバルブ座や継手のすき間、ヒンジ部などは視認が難しく、乾燥状態の確認が困難です。
これらの“盲点”が、見落とされがちなリスク領域です。
なぜ従来の圧縮空気方式は十分でないか(およびその限界)
多くの工場が「いつでも使える第4ユーティリティ」として圧縮空気を乾燥用途に使っていますが、以下のような物理的制約があります:
・圧力は約5.5〜8.3 bar程度が一般的で、約 3,800 Lクラスの容器を乾燥するには 25〜100 HP クラスのコンプレッサが必要になることも。
・高圧空気を使って「吹き飛ばす」方式は、空気抵抗や乱流、流れの偏りなどでムラが発生。複雑構造部には空気が届きにくい。
・作業者の吹き付けやノズル操作に結果が依存するため、日/シフト/作業者で乾燥ムラが出る。
・圧縮空気は電力消費が高く、動作負荷も大きく、設備の維持管理コストも嵩む。
・GMP/製造バリデーションの観点では、「どこまで乾いていれば合格か」という基準の定量化・再現性確保が難しくなる。
代替技術:温風ブロワ方式/強制対流乾燥
元記事では、Sonic Air Systems 社の技術を例として、従来方式の限界を克服する「温風ブロワ加熱方式(Hot Air Blower Technology)」を紹介しています。
要点は以下の通りです。
基本原理と利点
・ブロワによる圧縮熱(空気を動かすことで温度上昇させる adiabatic 圧縮)を利用し、外部加熱なしで約 160 °F(約 71 °C)程度の温風を生成可能。
・この温風を強制対流させ、蒸発を促進する方式。
・高い質量流量で空気を供給できるため、圧縮空気方式と比べ 最大 75%のエネルギー削減 が可能との主張。
・多くの用途で 15〜30 分程度で乾燥を完了でき、ROI(投資回収期間)は多くの場合 6〜12 ヶ月と見込まれる。
・HEPA フィルタ(0.3 µm/99.97%捕集効率)を通した空気を供給する設計で、食品/医薬用途などでも清浄度を保つ構成が可能。
実例と定量メリット
・例として、2000 ガロン級撹拌槽を用いるニュートラシューティカル工場では、CIP+冷却空気乾燥で 4 時間要していた処理を、本方式導入で 30 分未満 に短縮したとの報告。
・エネルギー消費も 180 kWh → 12 kWh に低減したという例もあります。
・運転コスト面では、従来の圧縮空気換算で「15〜25 USD/時間」かかっていたものが、「6〜12 USD/時間」程度に下がったという比較も。
・乾燥時間短縮・歩留まり改善・ダウンタイム削減といった効果により、生産能力向上・収益性改善が期待できると主張されています。
注:USDはアメリカドルです。(約150円で計算すると分かりやすいと思います。)
この情報が貴社の改善に繋がれば幸いです。